完全な縫製と安さの秘密

完全な縫製と安さの秘密

まず、下図をご覧ください。紳士服の概略図です。

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  1. 上えり: 表生地/芯/カラークロスの三枚重ね。
  2. 綿テープ: 衿の収縮による型くずれを防止。
  3. 純毛毛芯: 最も基礎になる服の重要な土台。この毛芯で全てが決まる。
  4. バス芯: 特殊な馬毛を使用。胸に張りとシルエットを出す重要な部分。
  5. フェルト: 羊毛フェルト。前肩から袖付け周りにかけて、ソフトなラインを出す。
  6. パット: ショルダーラインを保つ。
  7. 裄綿: 美しい袖山を出す。
  8. 裏ポケット: 上着には裏ポケットが5個以上つけられる。
  9. ハ刺し: 上衣前身だけで約1800針以上によって毛芯と他の芯を固定。かつ収縮による微妙なずれを修復する。
  10. 裏ポケット: ポケットの袋生地にも丈夫な袋地を使用。
  11. スレーキ: フロント・カット部にスレーキを使用し、生地と真の収縮率の違いによる狂いを修復する。
  12. 腰ポケット: 腰ポケットは特にものの出し入れが激しいため、腰ポケット専用地を使用。

この図では少しわかり難いとは思うのですが、紳士服は「布と糸」で単純に出来ているわけではありません。全部で630以上の部品と263以上の工程があります。意外に知られていませんが下手な家電よりも部品と工程が多いかもしれません。これだけの部品と工程を経るとなると一流の職人でも一着仕上げるのに40時間はかかります。

ではどうして、これだけ手間のかかる紳士服という代物がどうして安くなるのでしょうか?。単純に考えて40時間×時間単価2,000円としても、80,000円になる計算です。

企業努力?、製造原価を低価格に抑えたから?、いえいえパーツや工程を省くのです。一番簡単に省けるのが毛芯です。1800針を0針にしてしまう魔法のような接着芯(接着剤で止めたもの)があります。また全部で263工程あるのですから、これを100工程にしてしまえば、簡単に値段は半分になります。針数も工程数も減れば縫製時間も短縮されますから、40時間なんてとてもかかりません。

このようにして、あっという間に何処かのツーパンスーツ3万円のできあがりです。3万円の服には確かに3万円分の理由と価値しかないということです。

2002-2004頃