近況のご報告

今冬から春夏の傾向

最近お仕立てしたジャケット

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昨年は本当に更新の機会が乏しくなってしまいました。昨季は天候がとても極端で、猛暑かと思えば唐突に涼しくなったため、計画が維持できなくなってしまい、その回復にてんてこまいとなってしまいました。

「何かあったのかもしれない」とご連絡を頂くこともありまして、何ともありがたく思いますとともに、ご心配をおかけしてしまい、反省しきりです。

今回、まずは簡単に今秋冬からの傾向につきまして。紳士服の要素は構造, デザイン, 素材ですけれど、この点、構造やデザインは各類型の典型に帰って行っているという感じで、特にコレと言える特殊な特徴や傾向というのはあまり見当たりません。

素材や色柄, コーディネート優位です。往事の類型/典型にどうやって新しいテイストを入れるか、業界全体が「模索中」といった傾向がとても強いようです。今回は目にした色々な雑誌やショーから、目についたもの, 個人的に仕立ててみたい, 面白いと思った服の写真を集めてみました。

スーツ

Men's Ex 2014-02 [表紙 / p.64]

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今秋冬、特徴的だと思われた点がこの写真はよく出ているような気がします。おなじみの Men's Ex、2月号です。まだまだ冬服です。ダブルということはあっても数年前よりも明らかに幅広いラペル, 起毛素材で間隔の広いストライプ, しぼれたシェイプに、繊維それ自体の穏やかな光沢感といった感じです。

柔らかいもの, 暖かいもの, 穏やかで誠実なもの, それでいて若々しいもの、そんな言葉が浮かびます。服は全て「程度」の世界なので、いつも程度表現できる意図で動きます。多分、今の世の中がそんな言葉を欲しているような気がします。時々、仕立屋は言葉を服に翻訳しているんじゃないかと思えることがあったりします。

馴染み深い典型的なものではありますけれど、昔の典型に比べて洗練もあります。例えばラペル。この写真ではさほどでもありませんが、色んな既製服の提案でラペルの裁断がかつてのものよりも、立体的で柔らかいものになっています。

今季春夏は、上記の言葉が変わったように思えないこと, 夏であることから、強撚糸やマットウースなど平織りで凹凸/起伏感のある組織で、それでいて繊維それ自体の自然な光沢のあるもの、色は涼しさのある紺やライトブルーで、柄は秋冬に引き続いてチェック柄、そういうものが多くなる予感がしています (多分)。

ツィード

Clutch 2014-02増刊 [p.94 / p.147]

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とにかくツィードが強く出ていました。ツィードという素材は、それ自体に強いファンの方があります。愚息などもその口で、冬になると必要に駆られない限りツィードしか身につけなかったりします。ツィードは紳士服地の中では格別に物語性が強いような気がします。

左の写真のツィード三つ揃いは、今から見るとかなりショート丈に見えます。イメージを強調するためにデザインを誇張していますが、元々はこんな感じです。数年前まではツィードであっても裾が比較的スクエアに近かったのですが、この提案写真は相当に丸くなっていて、昔「大丸」と呼んでいた程度に近くなっています。デザインとしては、これもかなり「古い」です。

右のコートも今となっては珍しい襟をしています。コートでショールカラーというのは、今では滅多に見ないかもしれません。これも相当に「古い」です。雑誌では1930年代に多く見られたとありますが、三重は地方だったためか、かなり長く残っていました。私自身、若い頃に裁ったことがあります。このコートが上記にある個人的にもう一度作ってみたい服です。来冬用に覚えておきます!。この Clutch という雑誌を不勉強なことに知らなかったのですが、お客様に教えて頂きました。ありがとうございます。

Free & Easy 2013-12 [p.66 / p.67]

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先の東京秋冬展示会で、Free & Easy の編集の方(?)にお立ち寄り頂きまして、ちょっとびっくりしました。この雑誌はカントリーやアイビー, トラッドの傾向がとても強く、楽しい雑誌の一つです。無骨朴訥なスタイル感が満載です。この雑誌では2011年12月号にツィードが特集されていました。これでもかというくらいにツィードです。帽子や鞄もツィードです。当時はツィードがさほどでもなかったのですが、今ならぴったりです。

こっちの雑誌は Clutch の2月号ほど、尖ったものではなかったため、とても実際上の参考になりました。特に一昨年, 昨年はとても参考になったので…あわれこの号は資料としてスクラップに切り刻まれてしまいました (ごめんなさい)。

コート

コートは長い間、ショート丈が全盛でした。ただ、今冬はひどく寒い日が続いています。そのためか、長くなる傾向があるような気もします。写真はミラノ ファッションウィーク, グッチの提案コート、ミドル丈に近くなっています。お客様に教えて頂いたコートです。

かなり幅広い剣襟、ラペルはベリード気味に湾曲させています。また色柄はライトブルーで鮮やか。私自身が着用するのはちょっと年齢として難しいような気もするのですが、冬にこのような涼しい色を使うのは珍しく、かなり面白みを感じます。とても良いです。

コートは生地が高価になりがちな上、防寒という実用の要請も強く出ます。また、上記の傾向である典型/類型への要請から、「修理して着用できる, 長く着用できる, 無骨朴訥である」といったものと、「エレガントさ」を強調したものとの二極化が強くなっている気がしますね。

ちなみに、今までショート丈のコートが非常に優勢だった理由はとてもシンプルで、コートでも細身に作る要請が強かったためです。細身にして丈を長くすると、縦方向の長さが極端に強調されてしまいます。右図 長方形 短辺A:長辺B の印象(比)を維持しつつ、丈を長くするのは難しいという理屈ですね。

ということで、今回の更新でした。3月くらいまでは、まだ更新の頻度が上がらないかもしれませんが、それ以後はまた頑張って更新して行きたいと思います。2月の半ばには、また東京へもお伺い致します。生地は未だ揃いませんけれど、こちらもまた入手次第、ご紹介したいと思います。

2014.1.28