時代と共に簡略化されて…

時代と共に簡略化されて…

スーツで正装といえば、昼はモーニング・コート、夜はテイルコートと決まっています。そしてこれらの着こなしは殆ど細部に渡るまで決まっていて、余り悩んだりすることはありません。単に知っているかどうかの問題です。

しかし西欧人であれば、モーニング・コートやタキシードを、いつも礼服として着るのかと言えばそんなことは全くありません。何より堅苦しいですし、お金もかかります。そのため第二次世界大戦前後に、西欧では「ディレクターズ・スーツ」が流行るようになります。これは黒又は濃色のジャケットに、灰色のコールパンツ(縞ズボン)や薄い柄物のズボン、ジャケットまたはズボンに合わせたベストをつけます。略式モーニング・コートというわけです。実は正装のモーニング・コートもフロック・コートの代用といわれており、礼服はだんだんと簡素化され、代用されていく運命にあるようです。

フロック・コート (frock coat)

frock

神父さんが来ている僧服が原型となる礼服で、最礼装です。少し古いですが、エクソシストのカラス神父も来ていた様な気がします。しかしさすがに資料がありませんから、とある新郎の写真を拝借しました(D君、肖像権云々なんて言わないで)。この写真ではパンツもコートと共地の黒なので少しルールから外れています。大きな特徴はこの四つ。

  • 上着 :シングルで丈は膝まで
  • 生地 :黒
  • ベスト:上着と共地の黒
  • パンツ:コールパンツ

もともと僧服ですから乗馬を想定しておらず膝まで丈があります。これでは乗馬する貴族の方々は身につけられません。

そこでフロックコートの前身を削ぎ、背中の部分が二つに割れるようにします。これがモーニングコートの始まりだと言われています。

モーニング スーツ(コート)

morning

ディレクターズ スーツ

director

ダーク スーツ

dark

モーニング・コート - morning coat -

名前の通り昼間の半礼服で、フロックコートの代用です。代用とはいうものの今では最礼装と言っても良いでしょう。フロックコートをシングルにして、前身を削いだ感じです。

絵では背中が割れているようには見えませんが、実は割れていて、乗馬の邪魔にならないように、ボタンまでついています。

ディレクターズ・スーツ - director's suits-

モーニングコートの上着を普通のジャケットに替えただけのものです(細部に少しモーニングコートの名残がありますが)。色は黒。

モーニングから派生した略服ですから、ジャケット以外はモーニングと殆ど同じです。ただ、縞模様のパンツだけを守れば、ベスト、パンツの色の合わせ方も自由です。

ダーク・スーツ - dirk suit -

いわゆる礼服です。一般的に言う礼服はこれです。

モーニングのジャケットを普通のものに、ベストはあってもなくても。ダブルでもシングルでも構いません。

しかし西欧で戦争が終わり、時代が下ると、やがて礼服は簡素化されていきます。結婚式、葬儀であっても、黒い平服(ブラックスーツ)やダークスーツを着ます。嘘のようですが、西欧では礼服に黒い服を着るとも限りません。例えば最近の一般的な葬儀では黒のネクタイと黒靴下、黒靴のみが弔意のシンボルとされ、完全に平服で済ましてしまうようです。

勝手な推測ですが、これは西欧人の服の買い方に理由があるのかもしれません。西欧では滅多に服を買いません。買うときには吟味に吟味を重ね、20万円以上も出して買いますが、一端買ってしまうと非常に長く着続けます。日本人はお金持ちですからだらだらと服を何着も買いますが、西欧人はそういう買い方をしません。ですから、平服を最大限利用して礼服に代えようとする傾向があるのでしょう。

では、結局、今現在もっとも一般的である礼服とは何なのでしょう。日本ではダーク・スーツに黒又はシルバーのネクタイ、靴下、靴というところで良さそうです。これを満たしていれば、「足りる」と言えるでしょう。

2002