12aw ツィード, ミルドウースと羅紗

今期の特徴

今期も徐々に生地が出そろってきました。今期は例年より1-2週ほど揃いはじめが早くなりました。とても助かります。今期は傾向が各社で似たものになっていて、余り色柄に極端に大きな差異がなくなっています。正確には総合的に生地を扱う Zegna のような大手がシフトしてきた、という方が妥当な気がします。

とにかく今期は梳毛生地でも光沢の誇張が少なく、表面を起毛した縮絨系統の生地が豊富です。羅紗(コート地などの紡毛織物)、ツィードやそれに類する生地も目立ちます。「暖かみがあり穏やかで、少し田舎臭いような、落ち着いた色柄と風合いのものが豊富」と思って頂ければ遠くありません。以下、葛利毛織, Horrand & Sherry, Zegna, Scabal, 日本ホームスパン の抜粋です。

葛利毛織

今期は新しく葛利毛織の取り扱いを始めます。先日、突然に葛利毛織の社長氏がお見えになりました。以前にも書いたことがありますが、機屋さんとテーラーでは余りに規模が違いますので、全くと言って良いほど接触がありません。とても驚いています。何とも有り難いことです。

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ということで、今回は葛利毛織の生地につきまして。葛利毛織については、お客様の方が良くご存知のことと思います。低速のションヘル織機を今でも稼働させ、1900年代の風合いを色濃く残す生地、特に400g/m2以上の生地が得意です。梳毛織物では Super120-160's 当たりの高品質品で経済性が高いものが豊富です。

サンプルを見るところ、羅紗(紡毛毛織物)では「やっと見つけた」というような生地を備えています。今から40-50年以上前のピーコートやカントリー系で主流だったコート地は、まさしくこういう生地です。ご覧になると、きっと若い方は「何だこれは!」、ある程度の年齢の方には「懐かしい!」となること請け合いです。今までも、ぼつぼつと少量の取り扱いは行っておりましたが、今期はサンプル取り+現物が可能になります。

全般的な特徴としては、生地質は重いものほど良質で、まさしく往事の特徴を強く備えています。色柄も伝統的なものが多く、良く言えば普遍的、悪く言えば没個性で面白みに乏しくなります。

そのため、適正としては英国系統の堅牢なシルエットで長期に着用するスーツ、又はカントリー/実際用途のコートになります。堅牢ですから経済性は非常に高いと言えます。社長氏の仰るところ「品質は原毛と織機で決まる」で、品質と価格のバランスは抜群です。

Ermenegildo Zegna

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Zegna はここ何年か、表面を起毛した縮絨梳毛生地(Milled Worsted)を強く推していましたが、今期はそのまま Milled Suits というバンチが存在しています。ここからも今期の Zegna の推す傾向が強く出ていると思います。Anteprima でも秋らしい暖色系等に纏めた起毛素材利用のスタイル提案がメインです。

ただ、Zegna は特定系統を強く推していたとしても、選択肢は極めて豊富です。梳毛素材では前述 Milled Suits なものもあれば、イタリアらしいエレガントさを強く推して光沢も強い Trofeo (Trofeo600)、肉厚な Electa, シルクを混合しシワ耐性を強めた Traveller, ブリティッシュなツィードの雰囲気を強く持つ Heritage等々、大抵の用途には対応可能で色柄の洗練もあり流石です。

スタイル提案としては数年前の傾向はほぼ完全に消えました。光沢を誇張したようなものも完全に陰を潜め、むしろ、今の傾向が行き着いた感があり、ここからまた生地の色柄が変化していくのかもしれません。いずれにせよ、ウォームビズの要請や、色々と疲れがある今の世界には向いた傾向のように思います。暖かい印象というのは、色んな意味でほっとします。

Horrand & Sherry

Horrand & Sherry は変わりません。ここに期待する人の期待そのものを裏切るということがありません。Horrand & Sherry を好まれる方は、今年の新柄も期待通りです。肉厚で打ち込みのよい見慣れた生地で、なおかつ安心感のある洗練があります。今期のZegna と雰囲気が似ていますが、どちらかと言えば Zegna がこの種の色柄にシフトしてきた、という印象です。ただ、生地質や経済性は異なります。

Scabal

BESPOKEN p24

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Scabal は継続バンチというものがあり、何が継続/新柄かまだ不明です。もう少ししたら詳細が分かります。ちなみに今期のScabal BESPOKENでインパクトがあったのは、Clasic or Comtemporary: Make The Right Choice という記事でした。ブリティッシュ クラシックと、イタリアン エレガンスを把握しておけば間違いなし、というような副題がついていたりします。

短い記事ですが、状況説明が何とも端的です。今季はタイト/スリムで都会的なスタイルと、伝統的な三つ揃い/ジャケットの大きな二系統分化が強く出る、その交差点に現代的なものが現れる、としています。生地の色柄については、今季概ねどこも似た傾向を持っていますが、スタイル/シルエット/構造は本当に二系統の分化が強くなりました。

「交差するところ」がどんなものになるのか、ちょっと心惹かれるものがありますね。これは余り過去に経験のない状況ですから、とても見てみたい気がします。

日本ホームスパン

今季、日本ホームスパンも若干ではありますが取り扱いを行えるようになりました。カードバンチ、しかも十数点だけではありますが、用意することができました。是非ご覧頂けましたら幸いです。古くからここを知って見える方は「重い野暮, 典型的な国産生地」と仰る方が多いように思えるのですが、現在は非常に洗練された色柄を持っています。

よくこの業界では、洗練された/時流にあった色柄というような場合「生きた色柄」と言ったりしますが、まさしく「生きた色柄を持った国産」です。品質は国産ですから言う間でもありません。未だ写真をご用意できず、"生きた"としか言いようがありませんが、近いうちにご紹介できれば幸いです (夜に写真を撮ってみたら全て随分なピンぼけになってしまいました)。

もしお近くのテーラー等で可能でしたら、是非一度ご覧になってみてください。ジャケットでホームスパン系統をお考えなら、ご覧になって損になることはないと思います。

2012.9.2